5 月 14 日分のレポート問題の略解と講評【2018 年度 実解析学演習 I】

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準備

この記事を通して $N$ は $1$ 以上の自然数であり、 $\mu$ は $N$ 次元ルベーグ測度とします。

配点

問題 配点
17 30
18 30
19 40

問題 19 は、例えば期末試験で出題された際にできないと、単位が危うくなるタイプの問題です。

略解と講評

問題 17

略解

例えば $A = \mathbb{Q}^N \cap [0, 1]^N$ が該当します。

まず $\mu(A) = 0$ です。基本事項ですが、答案中示しても構いません。以下、次の補題を証明します。

補題: $F \subset \mathbb{R}^N$ を $A \subset F$ を充たす閉集合とする。このとき $[0, 1]^N \subset F$ である。

$F$ が閉集合であることと、 $A \subset [0, 1]^N$ が稠密であることにより示されます。稠密の意味がわからない人は自分で調べてください。

以上より、 $\mu(F) \geq 1$ が示されます。 $F$ の任意性より該当の式が示されます。

$A = \mathbb{Q}^N$ などでも構いません。

講評

上記と少し違うような議論でも、結局補題のようなことをしていれば、細かいところはともかくほぼ満点になっています。

$N = 1$ や $N = 2$ に限定したこと以外は正しい答案は、ごくわずかに減点しています。

(5/22 訂正) ある集合の境界でありルベーグ測度 $0$ でない集合を挙げてくださった方は、今回の例としては間違いです。どうして間違いかというと、最後で問題 12 を適用していますが、問題 12 は $f \colon [0, 1] \to \mathbb{R}$ の グラフ $\{ (x, f(x)) \in \mathbb{R}^2 \mid x \in [0, 1] \}$ に対する命題ですが、今回は $f \colon [0, 1] \to \mathbb{R^2}$ の $f([0, 1])$ に関する命題です。だから全く違います。この方法だとそもそもレポート冒頭で宣言している通り $\mu(A) \neq 0$ であり、よく計算すると $\mu(A) = \mu([0, 1] \times [0, 1]) = 1$ になり、偶然にも等号は成立しています。

$\epsilon > 0$ を使って該当集合 $A$ を記述した場合、 $A$ は $\epsilon > 0$ に依存するので、 $\mu(A) < \epsilon$ を示したからと言って $\mu(A) = 0$ が従うわけではありません。これは根本的に誤りです。

記号の使い方ですが、集合の exclusion は $A \setminus B$ と表記します。 \setminus です。これは商集合 $S/\sim$ などで表記する割り算の記号 / とは違うので十分注意してください。減点はしていません。

問題 18

略解

本質的でない議論を避けるために、次の事実を使用します。

命題: $S \subset \mathbb{R}^N$ はルベーグ可測集合であるとする。このとき、次の 1., 2. は同値である。

  1. $S$ の任意の部分集合は可測である。
  2. $\mu(S) = 0$ である。

選択公理は仮定しています。上記の同値関係の対偶をとってみてください。

$N = 1$ とします。そこで $A \subset [0, 1)$ をルベーグ可測でない集合とし、 $A$ を軸に $1$ だけ平行移動した集合を $A’$ とします。このとき特性関数 $f = \chi_{A}$, $g = \chi_{A’}$ はルベーグ可測でありませんが、 $fg = 0$ はルベーグ可測です。後者はさすがに基本事項なので「明らか」でいいですが、前者は、問題として出されているので、定義に基づいて確認するべきです(やっていない場合はわずかに減点)。

他にも $f = \chi_{A}$, $g = 1 - f$ としても良いです。

講評

命題の事実がありますので、 $A \subset [0, 1]$ などを解答者の側で仮定した答案も満点になっています。または $A$ を Vitali 集合などと具体的に指定した答案も満点になっています。

問題 19

略解

$a \in \mathbb{R}$ とする。 $f$ は連続関数なので、連続関数の定義より $\{ f < a \} = f^{-1}((-\infty, a)) \subset \mathbb{R}^N$ は開集合である。よってルベーグ可測集合である。したがって $f$ はルベーグ可測関数である。

$\{ f < a \}$ を $E(f < a)$ という記号で習っているかもしれません。どちらも有名な記号なので、無定義でも構わないでしょう。

講評

正解 or 全く不正解のどちらかでした。この問題は期末試験までにはできるようにした方が良いでしょう。

位相空間において、写像が連続であることの定義は、任意の開集合の引き戻しが開集合であることです。したがって、 $\mathbb{R}^N$ 上の関数で別の同値な定義を習っているとしても、これ以上説明は必要ありません。また、 $\{ f < a \} = \emptyset$ の場合を分ける必要はありません。もちろん正しい議論ならそれでも満点になります。

$f = (f_1, \dots, f_N)$ と「分解」した人は勘違いしています。今回の関数は $f \colon \mathbb{R}^N \to \mathbb{R}$ です。 $y = f(x)$ と $y = a$ の「交点」を考えた人は間違いです。$\{ f < a \}$ は $1$ 次元区間の直積では書けません。

その他

最近皆さんの答案のうち、よくできている複数の答案が、ある種「過剰防衛」気味になっているのを感じます。問題は「易しめで重要問題」の水準が続いているので、その原因は私にあると感じます。つまり私が「こういうことが述べられていないで減点しました」と書いているので、それに引っかからないように、厳密に答案を書こうとしているのだと思います。それはそれで結構でして、学習の姿勢としては必ずしも間違っていません。しかし、答案が無意味に肥大化していくのは、皆さんの時間を、間接的に私が、不必要に奪っていることになります。そこで、答案でどういうことを書かなくても良いかを、私の主観を交えながらお話しします。来週以降、こういうことはもう述べません。

有名な事実を答案でどう取り扱うべきか

次のことは、やらないと答案として不備となります。

  • 定理・定義の仮定を明示的にチェックする。
  • 自分が答案で使った記号が何を指すのかを明示する。
    • ただし、その記号が有名であれば記号を定義する必要はないでしょう。例えば $L^p$ 空間のノルムなど。

次のことは、やるとよいことです。

  • 定理の主張を引用して使用する。
    • よほど有名な事実ならば、定理の形で書く必要もありません。
    • 名前のついている定理の場合は、仮定を明示的にチェックすれば、あとは名前を述べるだけで適用してよろしいです。

例えば問題 18 の命題は、ルベーグ積分勉強した人なら誰でも知っていることですから、後者に該当します。「$[0, 1)$ はルベーグ測度 $0$ ではないので、ルベーグ可測でない部分集合 $A \subset [0, 1)$ が存在する」と書けば良いでしょう。また、問題 19 の主張自体は基本事項なので、普段の答案では「 $f$ は連続関数であるから、ルベーグ可測関数である」と普通に書いてよろしいですし、連続関数はすぐに積分を考えても構いません(可積分であるとは限りませんが)。

一方で、次のことはやらないほうがよいことです。

  • 「講義でやった通り」「講義でやったようにすると」などと書く。

理由は初回に書きました。採点者が講義でやった内容を判別できないからです。結局、採点者が客観的に採点する上で、どういう記述なら満点がつくのか考えれば、どうするべきかわかると思います。

また、次のことは、答案の中でしなくても良いことです。

  • 「〜〜という事実は講義でやった」と書く。
    • 事実なら、 講義でやったかやらないかに関わらず事実 です。
  • 有名な定理の証明を書く。
    • これはあなたが確認すれば良いことであり、答案で披露するのはお互い時間がもったいないです。

ルベーグ積分の講義は世界中至る所で行われていますし、講義に出席しなくてもルベーグ積分の本を読めば同じことは勉強できます。ゆえに、大事なのは「講義でやった」ということではなく、 「あなたが理解している」 ということです。私は中学校や塾や高校で「先生が教えていないから」という理由で正しい答案をバツにされたことはありますが、あれは「愚かな目上の人に合わせてあげることで人生をうまく乗り切るための練習」であって、東大のような普通の大学では、そういうことは起こるわけがありません。いつだって学習の主体は自分にあります。大学院以降は再びそういうことが全くない訳ではないですが。

このレポートに、あなたが理解している有名な定理の証明を書いてくださっても、有名な定理の証明を講義でやったことを主張しても、それを直接の理由として評価が低くなることは当然ありませんが、得点にもなりませんし減点にもなりません。そういう時間があるなら別の問題を解くなど、自己研鑽に充てると良いでしょう、というのが、今回私が言いたいことです。

ただし、問題を解く上で何を前提としてはいけなくて、何が有名で、何を既知として使用して良いかは、特に問題によって変わることです。みなさんが解答する前にわかりやすい基準を示すことはできないでしょう。その意味で、私の申し上げたことは空虚に響くかもしれません。ただし複数人の答案が、過剰防衛になっていると感じるので、このように文章にしました。該当する方が、時間を有効に活用することを願っています。

ナビゲーション

この教材は、 2018 年度東京大学教養学部統合自然科学科専門科目「実解析学演習 I」のために執筆されたものです。 TA が書いた非公式のものです。 他の回は実解析学演習 I #real-analysis-exercise-1-2018から御覧ください。

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