5 月 7 日分のレポート問題の略解と講評【2018 年度 実解析学演習 I】

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準備

配点

問題 配点
14 50
15 50
16 10

100 点を超えた答案は 100 点頭打ちとしています。ただし教員には一応素点を報告してあります。

略解と講評

問題 14

前回の問題 12 で $S$ がルベーグ外測度 $0$ であることを示しました。ゆえに、この問題の趣旨は $S$ が ルベーグ可測であることを示すこと にありますが、示すも何も、外測度が $0$ であるから完備性より直ちに従うと言ってもちろん構いません。完備性はルベーグ測度の本質的な性質の 1 つです。それが嫌なら、 $S \subset \mathbb{R}^2$ が閉集合であることを指摘しても良いでしょうし、カラテオドリ可測の定義に従っても良いです。古い本で勉強するとルベーグ内測度を定義しますが、それが $0$ であるから一致する、よって可測でルベーグ測度 $0$ と言っても構いません(あまりおすすめはしません)。

多くの人は上記の点を理解していました。先週問題 12 が出されている上にその差分として問題 14 が出題されています。したがって、問題 12 との差分である、 $S$ がルベーグ可測であることの根拠が全く書かれていない答案は、本来なら無効と採点するしかありません。すなわち、問題 12 でやったところは(外測度 $0$ の証明)は採点しない予定でした。しかし、それをしないと総得点が 0 点になる答案が想定以上にあったので、これは問題 12 と独立であると解釈して、その議論にもそこそこ加点してあります。この問題の意図がよくわからない人は、

  • ルベーグ外測度は $\mathbb{R}^n$ のすべての部分集合に定義される。
  • しかし、その中でルベーグ可測であるものは限られている。
  • ルベーグ可測集合にしかルベーグ測度は定義されない。

という事実を理解するように努力してください。問題 16 もあります。

問題 15

想定解

測度の増大列連続性を講義中示していると思われます(別にレポート上で示しても構いません)。 $B_n = \bigcap_{m = n}^\infty A_m$ とすると $B_n \nearrow \liminf_{n \to \infty} A_n$ であるから $\mu(\liminf_{n \to \infty} A_n) = \lim_{n \to \infty} \mu(B_n)$ である。後は右辺を変形するだけで、そこは容易でしょう。

その他

Fatou の補題を使っても構いません。通常は論理的に独立だから、少なくとも私は有効と採点します。間違えている人はほとんどいませんでしたが、測度の増大列連続性を使う際に、増大列であることを断っていない答案は適宜減点してあります。普通の列に対して連続性は成立しません。

問題 16

何事もわかるに越したことはないですが、あまり重要な問題ではないです。一応略解を示しておきます。

この問題が出題されたということは、多分、講義で Vitali 集合を紹介されたと思います。それを $V \subset \mathbb{R}$ とすれば $V \times [0, 1]$ は $2$ 次元ルベーグ可測でなくなります。なぜなら、それが可測であると仮定して、 $x$ 軸方向へ平行移動不変性を使うと結局、

\[ 1 \leq \sum_{k = 1}^\infty \mu(V \times [0, 1]) \leq 3 \]

を示すことができるからです。他にも $V \times V$ でも良いですし、 $2$ 次元空間で Vitali 集合の類似を構成しても類比的です。

講評

皆さんの答案を見ていると $[0, 1) = \mathbb{R}/\mathbb{Z} \subset \mathbb{R}$ とみなしてその中で加法を使っている人が結構多かったです。これでもできますが、本来なら異なるものの同一視が入ってくるので、上より 1 段階レベルが上がります。ここで正確に加法が入っている答案は稀でした。この解法を取った人は、特に「$[0, 1)$ が disjoint に覆えている」の証明は大丈夫なのか検討してください。

ルベーグ可測でない集合を作る際には選択公理を仮定する必要があります1。よって「構成的に」例を挙げることはできません。仮に選択公理を、意識せず自然に使用するとしても、商集合・類別の概念を訓練していないと $V$ の構成法そのものがよくわからないと思います。厳しい目で見ると正しくできている答案はわずかでした。ルベーグ積分の講義・演習としては $V$ の構成法は傍流で、ルベーグ可測でない集合が存在することを知っておけばよろしいので、この問題ができなくても 100 点が取れるようにしました。その代わり、この問題そのものは記述を厳しく見ており、最初から最後まで正確な記述がなされている答案のみ加点しています。

しかし商集合、中でも 線形空間の商空間 がわからないと A セメスターの続編( S セメスターの最後かもしれません)の冒頭から問題が出ます。然るべき時期までに線型空間の商空間について補うとよろしいでしょう。

余談

数学において、わかっているかどうかは、他人が判定するものではなく、結局は自分でしか判定できないものです。絶対これで大丈夫だという確信を自分が持つまで理解を深めることによってしか、その保証を得ることはできません。教壇に立っている先生がわかっているかどうかを独善的に判定する学問ではなければ(そもそもそれは学問ではないかもしれません)、偉い先生の提唱した理論や解釈をどれほど自分のものにできるのかを競う学問でもありません。ゆえに、どこにでもいそうな TA に過ぎない私が、答案という皆さんの思考の断片を見ることにより、あなたはわかっていますと保証を出すようなことは、そもそも期待できません。私ができるのは第三者的な視点から誤りを見つける程度のことです。一人で数学をやっていても、他人が間違いを指摘してくれたりすることはありますが、それはサプリメントのようなもので、結局、理解する役割があるのは自分です。その意味で数学は(本来は)自由な学問ですし、熟成するまで時間がかかります。そういうところに、筆舌しがたい数学の厳しさがあると私は思っています。

ナビゲーション

この教材は、 2018 年度東京大学教養学部統合自然科学科専門科目「実解析学演習 I」のために執筆されたものです。 TA が書いた非公式のものです。 他の回は実解析学演習 I #real-analysis-exercise-1-2018から御覧ください。

  1. Solovay, Robert M. “A Model of Set-Theory in Which Every Set of Reals Is Lebesgue Measurable.” Annals of Mathematics, vol. 92, no. 1, 1970, pp. 1–56. JSTOR, JSTOR, www.jstor.org/stable/1970696

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