数理院試の「対策」について

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特任研究員という立場で院試について述べるのはややためらわれるのだが、私の正直な理解を書いておきたいと思う。以下はあくまで私見である。

数理院試と東大入試の違い

東大の学部入試の数学は、毎年難易度がバラバラである。しかし、高校の教科書の章末問題などとは乖離したレベルの、難しい問題が出題される。しかも 150 分という短時間で 6 問も出題される。これは(言葉は過ぎるが)殺人的な試験で「非常時にとっさの判断でどういう行動をとりますか?」という試験をしているように、私には感じられる。

一方で、数理科学研究科数理科学専攻の修士課程の院試は、それとは全くレベルが異なる。専門科目 A は、やはり難しい問題が出る。ただ学部入試ほど捻ったものは絶対ない。教科書の章末問題レベルを少し上げた程度だと思う。一方で専門科目 B は、 素直な問題 が出る。学部の専門科目なので、つまり普段の演習で出る演習問題や、定期試験の難易度に近い。ただ 7 学期を終えた数学科の学部生が受けるので、深みが少しある。だから定期試験よりは難しい。しかし、数学的には素直な問題が出る。数学の内容が専門科目で高度なだけで、問題自体は素直である。

つまり学部試験と全く違う対策が必要である。いや「対策が必要」という表現そのものが間違っている。正確には「数理科学研究科の修士課程に入学するのにふさわしい数学力が普段の学習で醸成されていれば、 専門科目 B の問題は自然と解けるようになる 」。 7 学期までにそのような力が手に入っているかを、判断するための試験である。

院試の目的

私の理解を書くと、数理科学研究科の院試では、受験生の数学力が 7 学期の段階で足りているかどうかを、筆記試験と口頭試問で見ている。特に専門科目 B では、 18 問以上ある中から 3 問選択であり、時間も十分ある。素直な問題が出せるので、普段の学習の成果を問うことができているように思う。

いろいろ話を聞く限り、合格点は低すぎると思うくらいである。ただ合格点が低いのは悪いことではない。試験は結局問題の出たとこ勝負なので、どうしても不調の時というのもある。 合格点自体が低ければ、落とすべきでない人間を落とさないことができる 。学ぶにふさわしいすべての者に門戸を開く。これは東京大学のアドミッションポリシーでもある。

(教育の目標)
東京大学は、東京大学で学ぶに相応しい資質を有するすべての者に門戸を開き、… ーー東京大学憲章

しかし、それでも、どうやら合格者数は定員に達しないことも多いようだ。

「対策」について

受験する前に、さすがに過去問は見ておくべきであろうと思う。どのくらいのスピードで論述するか、答案を作成するかは、ぶっつけ本番でやるのは間違っている。数学科・数理科学専攻の人たちの中には「受験勉強するのは意味がない、かっこ悪い」みたいにいう人がいるけれども、院試のために勉強するのを斜に構えて「やらない」のは、真摯でないと思う。

一方で、その過去問に特化した対策を取る意味は全くない。数学の内容自体は非常に広大であることを忘れてはならない。過去数年で出題したトピックからは、むしろ出題を避けるかもしれない。と思えば過去問に近い問題が出るかもしれない。そんなのはわからない。向こうが決める。

それよりも、普段の勉強を見直すべきである。私見では、 院試を 1 学期から 7 学期までの総復習の機会だと思う のがいいと思う。例えば専門科目 A では 1 年生の線形代数と微分積分が必須である。 1 次連立方程式の解き方とか、忘れているかもしれない。そういう場合に、例えば足助先生の本で振り返ってみるのは、良いことだろう。

そしてきっと、受験生の受け入れ先教員が求めている「対策」も、そういうことなのではないか。つまり 1 学期から 7 学期までの復習をすることで、 8 学期や大学院修士課程で順調に数学の修練を積み重ねるための土台づくりをしてほしい、ということなのではないか。

前提に戻る

大学院入試は、大学院に入学してから必要になることを試験する。 当たり前のように見えるが、このことが担保されるのはとてもありがたいことである。たとえば体育が試験科目に入っていたらどう思うだろうか? 愚かすぎるだろう。教員が、毎年問題出して採点してくれることに、感謝しよう。だから普段の数学の勉強を積み重ねればいいし、それを教員もきっと求めているし、そしてそれで自然に解けるように試験問題が作られているし、失敗しても大丈夫なくらい合格点も低い。

ここで確実に言っておきたいのは、 数理科学研究科の院試に「過剰適応」する意味は全くない ということである。院試のために数学の勉強をすることはいいことだが、数学のために数学の勉強をしていないとおかしい。合格することが目的化するのは避けねばならない。もちろんそんな人は口頭試問で確実に見抜かれると思うけど。

まとめ

まとめると、院試の対策は、試験のために勉強しないといけないし、何のために数学をやるのかを間違えてもいけない。そしてそれらは普段から「真っ当に」勉強していれば、きちんと達成されると思う。そもそも、 数学が好きだから、数理科学研究科に入学して数学をやりたい のでしょう。だったら、その気持ちに従って普段から取り組んでいれば、問題なく合格するだろうし、きっと修士課程も(就職先や学振からどう評価されるかはともかく)有意義なものになると思う。

以上が私の理解です。