Laborify の記事についての質問への回答

Updated:

この記事では、前半は大学 1 年生以上の知識、後半は数学科 3 年生以上の知識を要求します。お読みになる際にはそのつもりでお願いします。

Laborify に記事を寄稿したら、質問がきたので、ここで回答しておきます。

以下では、区間 $I = [a, b] \subset \mathbb{R}$, $a < b$ を固定するが、ルベーグ積分の場合は $a = -\infty$ または $b = \infty$ を許し、リーマン積分の場合は $-\infty < a < b < \infty$ とする。

ご質問内容の要旨

ルベーグ積分については、次の定理が成立する。

定理: $f \in L ^ 1 (I)$ に対し、次の (L.1), (L.2) は同値である。 \[ \begin{align} \int _ I \lvert f(x) \rvert dx &= 0, \tag{L.1} \\\ f &= 0 \text{ a.e. in } I. \tag{L.2} \end{align} \]

$f$ が $I$ 上リーマン積分可能であり、リーマン積分の意味で (L.1) が成立しているならば、 (L.2) の a.e. を抜かしたものは成立しているのではないだろうか?

回答

ご質問の主張には、反例が存在する。次の命題が成立する。

命題: $I = [1, 2]$ とする。 $f _ 0 \colon I \to \mathbb{R}$ を次式で定める。 \[ f _ 0 = \begin{cases} 1/q & x = p/q \\\ 0 & x \not \in \mathbb{Q} \end{cases} \] ここで前者は、 $x$ が有理数でその既約分数表示が $p/q$ であることを指すとする。このとき、 $f _ 0$ はリーマン積分可能で、次式が成立する。 \[ \int _ I \lvert f _ 0 (x) \rvert dx = \int _ I f _ 0(x) dx = 0. \tag{R.1} \]

証明: $N \in \mathbb{N}$ とする。 $[1, 2]$ の分割を \[ 1 = x _ 0 < x _ 1 < \dots < x _ N = 2 \] とかく。 $i \in N$ に対し、 $\Delta _ i = \lvert x _ {i + 1} - x _ i \rvert$ とする。 $\Delta = \max _ {i \in N} \Delta _ i$ とする。 $i \in N$ に対し、区間 $[x _ i, x _ {i + 1}]$ の代表点を $\xi _ i$ と書く。このとき、リーマン和は \[ S = \sum _ {i \in N} f _ 0 (\xi _ i) \Delta _ i \] と書かれる。

まず、任意の分割に対し、 $f _ 0 (\xi _ i) = 0$ となる $\xi _ i$ が存在する。このとき $S = 0$ である。

次に $\epsilon > 0$ とする。 $\epsilon > 0$ は小さいとして良い。このとき、 $f(x) \geq \epsilon$ を充たす $x \in [1, 2]$ の個数は $1 / \epsilon^2$ 個以下である。すなわち、大きい順から並べると、 \[ \begin{align} f(x) &= 1; && x = 1, 2; && 2 \text{個}, \\\ f(x) &= \frac{1}{2}; && x = \frac{3}{2}; && 1 \text{個}, \\\ f(x) &= \frac{1}{3}; && x = \frac{4}{3}, \frac{5}{3}; && 2 \text{個}, \\\ \dots \\\ f(x) &= \frac{1}{k}; && x = \frac{k + 1}{k}, \dots, \frac{2k - 1}{k}; && (k - 1) \text{個}, \\\ \dots \end{align} \] であるから、その個数の和は $1/\epsilon^2$ で抑えられる。つまり、代表点として $f(\xi _ i) \geq \epsilon$ となる $\xi$ を取れる区間の個数は、 $1/\epsilon^2$ 以下である。

そこで $\Delta \leq \epsilon^3$ とする。先ほどのような点を含む区間では $\Delta _ i \leq \Delta$, $f(\xi _ i) \leq 1$ と評価することにする。またそれ以外の区間では $f(\xi _ i) \leq \epsilon$ が成立するが、そのような区間における $\Delta _ i$ の和は $[1, 2]$ の区間の長さ以下、つまり $1$ 以下である。以上より、次式が成立する。 \[ S \leq \frac{1}{\epsilon^2} \cdot 1 \cdot \Delta + \epsilon \cdot 1 \leq 2 \epsilon. \]

以上より、 $\Delta \to 0$ のとき、 $S \to 0$ である。したがって $f _ 0$ は $I = [1, 2]$ 上リーマン積分可能で、 (R.1) が成立する。

定理の証明

あと、定理の証明も書いておく。こちらは多分、院試とかで聞かれた時に証明ができないと河東教授から睨まれる系のレベルのことなので、数学科 3 年生以上は絶対諳んじられるように。

定理の証明: (L.2) から (L.1) は明らか。 (L.1) を仮定し (L.2) を示す。

$N \geq 1$ を自然数とする。 \[ A _ N = \{ x \in I \mid \lvert f(x) \rvert \geq 1/N \} \] と定める。このとき、($A _ N$ はルベーグ可測集合であり、) $\lvert f \rvert \geq \chi _ {A _ N}$ であるから、 $\mathbb{R}$ 上のルベーグ測度を $m$ とかくと、次式が成立する。 \[ m \left( A _ N \right) \leq \int _ I \lvert f (x) \rvert dx = 0. \] よって $m(A _ N) = 0$ である。

したがって \[ A = \{ x \in I \mid \lvert f(x) \rvert \neq 0 \} \] とすると、 \[ A \subset \bigcup _ {N = 1} ^ \infty m \left( A _ N \right) \] であるから、 \[ m(A) \leq \sum _ {N = 1} ^ \infty m (A _ N) = 0. \] よって $m(A) = 0$ である。これは (L.2) を意味する。