強い人を増やすには

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Twitter に書いておいたことを整理してこちらに書いておきます。

前提

chokudai さんもよくお分かりだと思うけど、この中で一番難しいのは最後の「日本人の赤以上の層が 2 倍になる」の部分である。

色々なゲーム見てきたけど、ユーザーを増やすのはそこまで難しくない。いや、それはそれで難しいけど、電通みたいなマーケティングのプロみたいな人たちもいて日経コンやってくれれば知名度高くなるなど、ある程度整備された道はある。

しかし、 トップ層を人工的に増やすのは非常に難しい。 人工的にやるなら将棋でいうところの奨励会みたいな制度を整える必要があると思っている。

本論

数学との比較

実際日本の数学界隈だって、昔は院試が難しくて院生が少なかった。今は西暦 2000 年前後の政策もあって院生は増えた。ではその分昔と今ではトップレベルが厚くなっているかというと、そんな風には全く見えない。むしろ薄くなっているとすら思う。

数学の場合どうしてこんなに薄くなったのかと思いを馳せるに、やはり昔は院試が難しく(内部の 1/3 程度しか受からなかったとも聞いたことがある)、修士論文=助手になるための試験、という意味があったから、そこがちょうど奨励会のような「残酷な装置」になっていたのではと思う。

今の若手は、たしかに修士課程 1 年から競争が始まっているけど、少なくとも数学の実力とはなんの関係もない例の「作文」、先生方の力である程度なんとかなる publish された論文の「本数」で競う時代だから、それに過剰適応した人が勝ちになるし、ゆえにトップ層は薄くなるの当り前である。

例えば、中村先生のように個人で圧倒的な数学力を持った人は、今の日本の微分方程式の若手にいない。むしろ、前も言ったけど「ミスプライス」を意図的に作り出し、それに乗じた人が出世している状況である。

将棋との比較

競技プログラミングは「ミスプライス」がほぼありえないので、その点健全だと思う。しかしそれでも、 ユーザーを増やして、定跡が整備されていくだけでは、上位層が厚くならない 。本人に適性も必要だし、それを見出して残酷なまでに戦わせ続ける装置が必要だと思う。

将棋は、強い人を人工的に生成することに成功している業界である。将棋には奨励会三段リーグがあるから、将棋はいつまでも進化しつづけるだろう。奨励会に属していない人でも、『将棋ウォーズ』とかアマチュア大会とかですごいレベルの人がいるわけで、確実に上位層の厚みは増えている。

ただしその残酷さは、有名である。特に、三段リーグを戦う人たちは、嫌でも将棋に強くならねばならない。その様子はフィクションでも知ることができる。私は『りゅうおうのおしごと!』が大好きなんだけど、最新 10 巻でも三段リーグの様子が描かれている。特に、ラストは非常に衝撃的、 heart-breaking であった。

仮に上位層の厚みを増やすことを狙うなら、どこかで残酷な装置が必要だろう 、というのが私の意見である。

結論

ここまで書いておいてなんだけど、 別に強い人たちが増えなくても、そんなに困らないのでは? とは思う。

AtCoder 社さんが会社として大きくなるためには、企業がスポンサーとなっているコンテストを多く開くことが重要で、そのためにはコンテスタントが大量にいる状態を維持することが前提だと思う。そうすることで請求力が増す。そのためにはユーザーを増やせば良い。

そして、その人たちがどのくらいコンテストに適性があって、どのくらいの強さにまでなってくれるかは「感知できない」でよいのではないかなと。そりゃ初心者向けコンテンツや、データ構造説明するコンテンツくらいはあってもいいと思うけど、それらはけんちょんさんのような親切な人たちが日本語で色々書いている。換言すれば、強くなれる人は放置しても勝手に強くなれる環境にすでになっていると思う。

私がこの記事を書いた理由は「ユーザーを増やすことと比べ、上位層を増やすことがいかに難しいか」を、読者の皆さんと共有したかったからである。 これに成功しているゲームは、私の知る限り将棋(あと囲碁も?)しかない。そしてそこには、単に強くなるためのコンテンツが充実しているだけではなく、 適性の高い人たちを、人生をかけて徹底的に競わせる残酷な装置 がある。そんなもの、コンテストには、なくてもいいんじゃないかなと。

もちろん以上のことは chokudai さんはよく理解していらっしゃるでしょうけど、広く共有されているとは言い難いので、よい機会なのでこちらに書いておきました。