私が公言して良いことと悪いこと

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この記事は、要するに私が毎日アストルフォかわいいと公言する理由と、公言してはならないものとその理由をまとめたものである。

この記事で議論しないこと

この記事では当たり前のことは書きません。例えば守秘義務があることは公言しません。つまり取引先の情報とか、他人の論文のアイデアとか、(私は査読したことないけど)公開されていない論文の情報とかです。例えば業績は公表します。博士課程学生は既に研究者としての側面があり、国民から間接的な支援と付託を受けている以上、業績は速やかに公表します。

そういう常識的なことはこの記事では書きません。

公言してよいこと

昔は、なんとなく、趣味(ゲームやアニメ)について公言するのはよくないのではと思っていた。少なくとも本名とつなぎ合わせて公言するのは差し控えるようにしてきた。しかし最近は考えを改めて、公言してもよいのではないかと思うようになってきた。むしろ 自分の身を守ることに繋がっているよう にすら思えてきた。

博士課程学生として過ごして改めてよくわかったのだが、この国では、 偉い人に気に入られて出世するのは、メリットでもあるが、同時にデメリットでもある 。責任と事務作業が増え、本当に重要な仕事をするための時間は否応なしに減っている。そういう場所で「手柄」を挙げていかないと生きていけないような寄生虫のような人間もいるが、ただ情けなく害悪なだけである。少なくとも私はそうなりたくない。

その点、アニメ・ゲーム好き、特に 2 次元美少女好きを公言しておけば、 偉い人から「こいつは出世させてはいけない」とわかってもらえるだろう と期待できる。普通のビジネスの世界や、アカデミアの世界で「 2 次元美少女大好きです」「私は人生をかけてビデオゲームをしているんだ」と公言している人間に公的な役職を与えるようなことは、とてもではないが、できないだろう。

その結果、私は上記のような苦労を、普通の人よりせずに済むと期待できる。私は自分の能力を磨いて、自分の仕事に集中できる。また、対外交渉の矢面には立たせられないだろうから、取引先との不要なリスクも負わなくて済む。その結果、私が所属する組織は繁栄することができるだろう。全てのステークホルダにとってこれはいいことなのである。

また、私のどうしようもない両親を切り捨てるためにも有効である。私も実家にいるときは、両親から人間でない仕打ちを受けてきた。私の親がしてきたことは、普通の親がすべきことではない。特にアニメとゲームについては偉い人から見ると情けない趣味であり、やめなさいと何度もはっきり言われてきた。バカなものを切り捨てる意味でも、「こいつが息子であることが恥ずかしい」と思うくらいに、アニメ・ゲーム好きを公言しておいて、向こうから世間体を諦めてもらった方がマシである。

実際私が「アストルフォかわいい!」とか「数学の研究をすることは魔法使いになるということだ」とか「魔法使いになってチセちゃんを嫁にもらいたい」とか発言しても、誰からも失望されない。誰からの信頼も損ねていない。詳しくは About の下の方に書いておいた。

では、どのようなことを発言してはならないのか。

「信頼」を損ねてはいけない

インターネット社会で、人として大事なのは「信頼」だと思う。現代社会においては、情報は公開される。もちろんその中には嘘もあるが、やがて淘汰されます。また、本名は隠していても、その気になれば調べることができる。こういう状況では、インターネットでの発言はその人の信頼を担保するものとなる。

そして信頼というものは、自ら作ることはできない。長い時間をかけて醸成されるものです。例えば AtCoder などで企業がスポンサーとなりコンテストを行うのは、企業としてコンテスタントから信頼を得るためである。

例えば PFN 社は JOI や ICPC に非常に高い協賛金を支払っているが、その結果、 PFN 社のエンジニアのレベルが高いと認知されており、 JOI や ICPC で日本代表レベルとなる選手の囲い込みに成功している。「エンジニアのレベルが高い」は、おそらくなんらかの手法で説明できるような事実であるが、 単に「事実」なだけではなく、そうコンテスタントたちから「信頼」されていること が、とても重要なのである。

ドワンゴ社は 5 年前から AtCoder でコンテストを開いているが、優秀な人材の確保に成功している。その証拠として、先日開かれたドワンゴ社のコンテストの予選では、 全ての問題を自社エンジニアが作問し、公式コンテストとして rated となった 。これは途方もなくすごいことと言える。 5 年間のリアルな成果と言える。

企業としての「信頼」が、(新卒とは限らない)人材を確保する上でどれほど重要であるか、この辺のリアルな事情について、 AtCoder 社長の chokudai さんが最近記事を書いている。

なぜAtCoderでコンテストを開くのか?

コンテストを開催するという行為それ自体は、採用活動ではありません。ですが、多くの企業が、採用の際の母集団形成として、AtCoderを使用しています。

正直な話、コンテスト参加者は、IT企業に関して無知です。超有名企業は知っているものの、そうでない企業はほとんど知らない、という場合がほとんどだと思います。コンテストを通じて企業名を覚えてもらうだけでも、他企業に対して大きなアドバンテージを得ることが可能となります。

AtCoderの参加者は、他就職サービスと比べて滅茶苦茶優秀です。他実力判定サイトで上位2%のSランクと呼ばれているレベルでも、AtCoderでは上位30%程度にしかなりません。なので、各企業は早い段階から連絡を取り、新卒採用サイト等に登録する前に内定が出てしまい、そのまま就職活動を終える、ということが良くあります。

つまり、コンテストを開いて接点を作らないと、絶対に採用出来ない参加者が多くいる、ということになります。この層にアプローチできるのが、AtCoderでコンテストを開催する最大のメリットです。 競技プログラミングと現代社会、および就職について (chokudaiのブログ)

公言してはいけないこと

逆に言えば、 私は私の「信頼」を損ねるようなことは言ってはいけない 。私はおそらく、特に次の 2 つの観点では信頼を受けていると思われる。

  • 数学を専攻した者としての信頼
    • 例えば学部 3 年生レベルの数学までは全部わかっていると期待されている。
    • それだけでなく、博士課程学生としてふさわしい専門レベルがあると期待されている。
  • コンテスタントしての信頼
    • 計算機科学の専門教育を一度も受けていないので、計算機科学に関する一般論や流行りの技術について無知を晒しても許してはもらえるだろう。
    • しかしそれでも、最低限コンテスタントとしての常識は必要である。

私が「アストルフォかわいい!」と言いながらアストルフォの画像を ReTweet しても誰からも信頼を失うことはない。実際ほぼ毎日やってみているが、誰も失望している様子は観測できていない。しかし例えば私が「小学校でやるかけ算には意味があるので順序を逆にしてはいけない」とか「積分は微分の逆演算として定義される」とか「回転行列でどっちにマイナスがつくんだっけ?」とか「位数 $12$ の二面体群は可換である」とか「$L^1(\mathbb{R}^n)$ の元をフーリエ変換して逆変換したら戻ってくる」とか言ったら、その瞬間に取り返しのつかないくらいの信頼を損ねるのである1。これが私にとっての「してはいけないこと」である。

そして、一度失った信頼を取り戻すのは、とても大変である。上で述べたようなことのちょうど逆が起こることになる。

例えば企業がコンテスタントからの信頼を損ねた場合は、大変なことになる。「自社はこんなにいい会社なんですよ」と、経費をかけて一生懸命宣伝したところで、「エンジニアさんのレベルが低い」とコンテスタントから認識されれば、コンテスタントの囲い込みは期待できなくなる。これはちょうど AtCoder に課金するのとちょうど逆をやっていることになる。その損失は計り知れない。たった 1 度の発言で「全て」が終わってしまうかもしれない。というか終わるところを複数回観測してきている。

例えば計算数学は、例年理学部数学科・数理科学研究科から多額の予算をもらって運営されているが、「計算数学の TA の技術レベルはどうしようもなく低い」と判断されれば、実習の存在すら無くなる可能性だってある2

前回の記事でも書いたが、嘘を述べるのは非常に危険である。私の身近の人たちは、こういうことをしない方がいいと思っている。

  1. もちろん私が数学の修練に励む限り、こういうどうしようもないミスをする可能性は低い。ミスそのものをしないということはできないが、信頼を損ねるほどのどうしようもない類のものはないと思う。コンテストも同様である。 

  2. 実際は私はむしろ技術力は低い方で、だめぽ先生、まのひと君、足跡君、すなえもんちゃんのような後輩の talented な皆様がいたから問題はなかったのだが。 

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